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ヒビノココロミ

日々、いろいろ試して、いろいろ言うブログ。

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<span itemprop="headline">寒空の文房具屋めぐり</span>

「それがさあ、もうほんとに信じられなくって。」
「ええ、ええ。いまの子はそんなこと平気でするんですか。」
「あたしびっくりしたわよ。小学生が、ねぇ。」
「平気で万引きみたいなことをするんですか。」

僕は、さも驚いたような様子でその話を聞いていた。
僕が小中学生のときにも万引きしている奴がいたという噂は
聞いたことがあったので、そこまで驚かなかった。
もちろん、僕はそんなことしたことは、無い。

「そうよ。2、3人で入ってきて一人が様子を見て…」
「それで、ほかの子が盗っていくということですか。」
「ほんと信じられなくて。そのときは怒鳴ってやったわ。」
「怒鳴ったんですか。」
「なにしてんの!って。」

すすけた什器に緑色の学習帳が2、3冊置いてある。
天井から下がる台紙に張り付いたスーパーボール。ラメ入りの球がにぶく輝く。
正直、この店からなにを盗るんだろう、と思ったけどそこは問題ではない。

僕はいま、坂のてっぺんあたりのタバコ屋にいる。
昔は文房具メインみたいだったけど、今はタバコ屋。
もちろん、目当てはタバコではなく文具なのだけど。

さっきから、この話をもう十分ぐらいしている。
僕は文具を買いに来たはずなのに、なぜかおばちゃんと話している。

息をするたび、ほこりのにおいがする。
崩れそうに文房具の箱がつまれている。
あれは、虫眼鏡の箱。これにはピンセット。あ、インクも。

「で、その子はどうしたんですか。」
「うん、下向いて喋んなくなって、黙ってそのペンを返して。」
「謝らないんですか。」

話すことに半分頭を使って、半分は店の中を物色するのに使った。
僕とおばちゃんの間にあるカウンターに目をやった。僕の顔が映る。
薄青いガラスのショウケースに、古びた万年筆がきっちりこちらを向いて並んでいた。
銀地のストライプ、悪くない。が、そそらない。隣のピンクのは、論外。

「そう。結局なーんも言わなかった。」
「なんかね、いまの子はみんなやってるみたいなのよ。」
「いまの子、あ、いや、そういう子もいるんですか。信じられないですね。」

僕は「いまの子」という括りかたが気になったので、咄嗟に言い直した。

そして、めぼしい文具がないことにちょっと落ち込む。
まあ、こうゆう店ならこんなもんだ。と、自分に言い聞かす。

「ここ、学校のすぐ裏でしょう。だから小学生がよくくるんだけど、」
「ええ、」
「昔はそんなこと無かったのよ。」
「ですよね。」

過去は良いように修正される、という話を聞いたことがあったので
おばちゃんの発言が気になったが、ここで反論するのもおかしいので適当にあいづちを打った。
そして、僕はおばちゃんと目を合わせつつ、後ろのシャーペンの棚を探った。

「だから、そのことがあってから、この子やるんじゃないかって、」
「疑ってしまうんですね。」
「そうよ。まあ、めったにはいないんだけど。」
「そんなことする子は、そんないませんよ。」

僕は、疑ってしまうおばちゃんも、疑われてしまう子供もかわいそうだと思った。
だから、つい、そんなことを口走った。

「そうよね。」
「この年になって、こんなことあるなんて。」
「そうですよね。」
「いまの子って、そういうことをあんまり悪いことじゃないと思っているみたいね。」
「そうなんですか。」
「度胸試しとかでやっているのかしら。信じられない。」
「ええ、うそぉ―」

二人の会話以外は秒針の音しかしない部屋に、空返事が響いた。

「えっ、ええ、そうなのよ。」

僕は劣化して粉の吹いたゴムグリップの粉を払うのに夢中だった。
適当にしすぎて、相槌がいやに大きくなってしまった。やりすぎだ。
違和感を修正しようと、こちらから話を振る。

「でも、ねぇ、みんながみんなそうじゃないですから。」

「あ、ほら、さっき「昔から」って言ってましたけど、いつからやってるんです、ここ。」
「そうね、20年ぐらい?もっとかな。」
「へえ、まわりの様子変わりました?」
「そこの通りが綺麗になったぐらいかな。」
「ああ、確かに綺麗ですね。」

薄緑と、淡赤のタイル。
どこかで見たことのある歩道のタイルが、町を画一化してゆく。

「そこの大学病院も変わらないし、学校も前からあるし」
「じゃあ、この商店街は変わらないんですか。」
「そうね、わりとみんな元気でやってるわ。」
「何か交流とかあるんですか?」
「そう、いつもはここでみんな集まってお話しするのよ。こういうこと。」

桃色の毛糸の帽子をかぶったおばちゃんは、少し楽しそうに微笑んだ。
窓の外の日が、赤みを帯びてきた。
僕は、この話の終着点をそれとなく探し始めた。

「へえ、うちのほうの商店街はもうシャッター通りですよ。」
「そうなの。でも、こっちは大学とか、病院とかいろいろあるからね。」
「そうですね。地元はもともと人が少ないので。」
「へえ、地元ってどこなの?」
「あ、いや、埼玉の…」

何で知らない人に地元の話をしているのか。言う必要はないのに。
いや、べつに言ってもいいんだけれど。

とにかく、軌道修正は失敗。

「へえ、埼玉ね。」
「ええ、ええ。」
「ふーん…」

なんか、変な空気になってしまった。空気がよどむ。
店の掛け時計に目をやると、秒針が止まって見えた気がした。

僕は、再び軌道修正を試みた。

「あ、あの、さっきのですけど、みんなでここでお話しするんですよね。」
「お話?ああ、そうよー。女の集会よ。」

また、おばちゃんは嬉しそうにした。楽しい時間なんだろうな。

「へえ、じゃあ、お菓子とか持ち寄って。」
「そう、いろんな話をするの。」
「もしかして、その仲間でお出かけとかするんです?」
「そんなことはないにし…あ、いらっしゃい。」

僕とおばちゃんの二人だけの店内、そのとき急にドアが開いた。

「いつものやつ2つ。」
「はい、毎度どうも。」

かれた声のおばさんが、タバコを買いにきた。
慣れているやり取り。さては常連。
これはチャンスと、僕はこの隙に、

「あ、じゃあもう帰ります。」
「そう、話し込んじゃってごめんなさい。」
「いえいえ、じゃあ。」

と、足早にそのたばこ屋を後にした。
放課のグラウンドで子供たちがはしゃぐ声が聞こえた。
僕が子供の時となーんも変わんない夕方だ。
夕日で赤く染まった、うちの街とおんなじ色のタイルを踏みしめて、僕は駅へと向かった。




はい、年始からいきなりテキストだけですみませんでした。
こちらの都合で、今月は企画が思うように出来なかったのでこんな感じに。
あのね、要は原稿落としたみたいなことです。落とすと文房具屋めぐりの記事になります。
まだ、文房具屋巡りのストックはあるのでいつ原稿落としても大丈夫!
…じゃあ無いですよね。私だって企画やりたかった。反省します。
むしろ、こんな恥ずかしい文章をあまり載せたくないのでちゃんと企画やらねば。
2月はこの失敗を取り返す勢いで頑張りたいと思いますよ。うぇ~い!

…もし、楽しみにしてた方がいらしたなら本当ごめんなさい。次を待っててください。