ヒビノココロミ

ひび、すきなもので、すきなところで、すきなことをする

夜行列車で行こう、白馬へ ―ムーンライト信州に乗りました

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夜行列車、乗ったことあります?しおせんです。

 ―それは、初秋の夜のこと

「はぁー!せっかく連休もらったし、どっかいくかねぇ」

 

暇を持て余した私は、旅の相棒X70を手にとりつつ、ぼんやりしていた。

 

 

「どこか行くと言ってもさぁ、行きたいところは…思いつかない」

そう、そこなのである。

行きたいところが特にないのである。

 

「行きたいところ、ねぇ。電車に乗ってさぁ、いろいろ行ったからな」

 

hibinokokoromi.hatenablog.com

hibinokokoromi.hatenablog.com

 

いつも行くところは、決まっている。馴染みの観光地は、安心感がある。

私は、旅に冒険は求めない。全てはリフレッシュのためである。

だから、知ってる場所に何度も行くのはむしろ良い。

どこに行くにしても、"予定を詰めすぎない”。それが、一人旅の鉄則だ。

無理はしない、無駄もない。しかし、余裕はある。それが理想。

 

しかしながら、今回もお決まりコースで良いのか…?

箱根?鎌倉?それとも日光?良いじゃあないか。

でも、何故か納得しない自分がそこにいた。

 

「何が不満なのか。でも、何が不満かわからない、ああ…」

今夜も、”どこかへ行きたい”衝動を抱え悶々としたまま、眠るのか。

 

「いっそのこと、あてもなく…夜の列車に揺られて」

「あっ」

 

「そうだ、夜行列車で行こう!」

 

単なる思いつきであるが、その気軽さがいいのである。

そうと決まれば、善は急げ、今すぐ夜行列車にー

 

「…でもさぁ。いま夜行列車って、殆ど無いんだよね」

そうなのである。夜行バスに取って代わられた今、夜行列車は殆ど無い。

trafficnews.jp

 

「今日、今すぐに、って列車なんか、ないない」

そう思って、口では否定しつつも、手は勝手に検索している。

これはもはや、抑えきれない衝動がそうさせているのである。

 

わかっている。夜行列車の人気は。前々から予約して行くんだろう。

定期運行のサンライズの人気は詳しくなくてもわかる。

しかしながら、私は夜更けの窓を見ながら、レールの音に身を委ねたい―

 

一縷の望み、ワードを替えて検索する…

その試行の中、ふとあるツイートが。

「ん?ええ!?今日ムーンライトってのが、走って…る?」

 

www.wikiwand.com

”ムーンライト”、それは不定期運行の夜行列車である。

その存在は検索の初めの方でつかめていた。

JRの運行案内も確認して、今季はもう終わったのも確認した。

それが、何故―今?

 

理由はわからない。だが、確かに今夜23時に新宿を発つ列車がある。

気がつけばネットで座席を検索していた。

 

あった!なんだ、わりと空いているではないか。この時期は利用しないのか?

時刻はすでに20時前。猶予はなかった。

私は終着駅・白馬行の座席指定券を予約すると、新宿へ向かうことにしたのである。

 


 

「寒いな」

生憎の雨の上野駅。

最寄り駅からの乗り替えで、JRを目指す。

濡れた路面に映るネオンは夢の中にいるようで、幻想的な気分。

 

山手線に乗る。

 

しかしながら、人が多い。多すぎる。皆、この時間まで仕事なのか。

同情ではなく、もはや辟易するといった感情が湧いてくる、すし詰めの車内。

 

 

「やっとついたぞ」

夜更けの新宿駅。

しかしながら、新宿駅には昼夜は関係ない人混みがそこにある。

 

勢いで来たが、ムーンライトの発車時刻までまだ一時間程度ある。

「まにあった…」

 

しかしながら、旅にトラブルはつきものである。

私は、新宿駅につくなり、2つの問題を抱えていた。一つは、悪天候による列車の遅れ。

 

そして、もう一つは―

 

「この時間ですと、みどりの窓口は閉まっていますね」

駅員が淡々と告げる。

終わった。これでは座席指定券が出せない。

 

上野でネオンに酔っている場合ではなかったのである。

すべきは、みどりの窓口へ往くことであった。

 

「では、どうすれば…」

半ば諦めの思考。しかし列車に乗りたいという衝動が、勝手に口を動かす。

「もうネット上ではクレジットで支払いは済んでいるんですよ。だから!」

 

このままでは、右手のレジ袋のサンドイッチが無駄になる。これを列車で食べたい。

 

私の切羽詰まった様子を察したのか、奥にいたもうひとりの駅員が口を開く。

「ああ、では、お客様。白馬まで行かれるんですよね。でしたら」

「でしたら?」

 

「着駅の白馬で精算してください。新宿駅でそう言われたと告げれば問題ないかと」

「しかし、車内での指定券の改札があるので、そのときはその予約画面を見せてください。それが、”座席指定券”の代わりです」

 

「…。ありがとうございます!」

 

中央本線のホームでただ列車をじつと待つ。

落ち着かなくて、音楽を聞くのもままならない。

 

「間もなく、遅れておりましたムーンライト白馬が参ります、なお、ご乗車には座席指定券が必要です―」

 

駅員に了承を得たとはいえ、不安である。

本当に乗れるのか?

 

列車が、ホームに、入ってきた。

「ああ!おきゃくさん!指定券は持っていますか!」

隣の乗車口に駆け寄った御婦人が駅員に足止めされる!

「ええ?そうなのぉ」

彼女は、何事もなかったようにホームの階段を登っていった。

 

私の体に緊張が走る。果たして―

 


 

 「そうなのですか。では、どうぞ」

 

私は、無事車内へ入ることを許された。

 

「この電車は、全席指定席です」

 

抑えめの車内放送が告げる通り、指定席しかない。

しかし、私は無事に座れたのだ。

 

指定席に着くことを許された安堵と、はじめての夜行列車という高揚感が入り混じった感覚は、なんとも言い表せなかったが、心地よいものであった。

 

私は隣の席に会釈したあと、レジ袋のサンドイッチを取り出すと、先程までの不安で心に空いた穴を埋めるかのように、黙々と食べ進めた。

 

列車は初秋の信州へ向けて、遅れを取り戻すように走り出した

 


 

「―間もなく、白馬です」

 

…果たして私は、一睡もできなかった。

正確に言えば、寝たくはなかった。この初体験をすべて味わいたかったのだ。

睡魔に抗った妙な達成感と、首の違和感を感じつつ、列車を降りる。

 

初秋の信州。それも名峰のお膝元・白馬。

刺すような寒さを覚悟して、上着を重ね、ホームへ降り立った。

 

「今日は寒くねぇなぁ」

タクシープールの運転手が、談笑していた。

 

寒さ対策は、杞憂に終わった。

この日は全国的に季節外れの陽気で、夏日のところもあったようだ。

天気予報は見るべきであった。

 

無事精算を終えて、改札を出ると私はローターリーを見回した。

「どこか…どこかに開いている店は」

時刻は6時前。

 

寝付けなかったムーンライトの車内で何をしていたのかといえば、朝食にありつけるかの調査である。

 

マックは潰れた、ローソンは遠い、ガストはまだ開いてない。

絶望的な検索結果を何度も見て、諦めはついたはず。

しかしながら、空腹はどうにもできない。

…と、皆が入ってゆく店がある。

 

「こんな情報、なかったぜ」

私はついている。この旅の成功が見えてきた。

 

「山菜そばを」

「山菜ね、はいよ」

 

「朝は雲が多いですが、日中は晴れ間が―」

地方アナウンサーはこういう人か。朝のニュースで遠くへ来たことを感じる。

と、間もなく山菜そばが供され、私は一気に流し込んだ。

 


 

―しかし、気持ちの良い朝である。

数時間前までは、都会の雑踏に嫌気が差していたのが嘘のような。

 

私は、絶景を横目に電話をしていた。

「ええ、ですから、宿泊ではなくてですね…。はい。そうです、朝食を」

 

「では、お待ちしております」

電話の向こうがそう告げると、私は満足そうに電話を切る。

 

全ては、思い通り―

 

ホテルまでの坂の途中、絶景に足を止めつつ、笑みを漏らした。

この清々しさの中で、きょうは思う存分。そう覚悟を決めた。

 

www.hakuba-highland.net

坂の頂上のホテルのロビー。

「朝食の会場は、この裏手の階段を上がっていただいて」

「ありがとうございます」

 

朝食券を握りしめ、会場へ。

おや、これはこれは。

眺望に満足しつつ、さっそく朝食バイキング。

www.hakuba-highland.net

 

(1200円でこれは、いいんじゃあないか)

予想より遥かに多い品数の中から、”食べたいものだけ”選ぶ。

全部は食べない。目的は、理想的な朝食を構築することだ。

 

「川魚か。さすが海なし県」

最近は、魚も食べたくなってきた。良いラインアップである。

 

川魚をお替りして朝食を終え、ロビーでコーヒーを飲んで落ち着く。

と、そこに初老の男性が。

「今日は、暑くなりそうですね―」

聞けばこの男性、このホテルで連泊をして今朝帰路につく、と。

 

聞いてもいないのに、ホテルの周辺情報を教え込まれ、ありがたくも、話もそこそこにそそくさと退席。男性の趣味についても頭に流し込まれた。自転車お好きなのね。

 


 

朝食を終えて、私は駅前からあてもなく歩いた。

こういうのが、良いんだ。

 

ふと、目についた"好日山荘"。

https://www.kojitusanso.jp/shop/koushinetsu/hakuba/

 

「8時から開いているのか。これは都合がいい。時間を潰そう」

特に欲しいものはない。だが、入ったが最後。

スーベニアコーナーを物色し…

 

買ってしまう。

いや、このナルゲンのボトルは良いものなんだ。そうなんだ。

 

hibinokokoromi.hatenablog.com

 

それはそうと、すばらしい陽気である。

この川の流れ。心が洗われるようだ。

 

―私は今、間違いなくリフレッシュできている。

心からそう思える。

 

秋桜に秋の訪れを感じつつ、

「そういえば、昨夜は風呂に入っていないな。温泉、おんせん♪」

軽い足取りで、ナビに従い歩を進めた。

 

「ここが”八方の湯”かぁ、新しいな」

八方の湯 | 八方温泉

 

あまり確認はしなかったが、手頃な値段で一安心。

 

聞けば、2014年にオープンしたばかり。道理てきれいなはずである。

これなら、女性も気兼ねなく過ごせるのではないだろうか。

 

店内観察もそこそこ、湯を浴びる。

 

「てか、まだ自分しかいない。貸し切りとか、最高かよ」

三連休だが、時間が早かったのか、大浴場を独り占めできた。

 

さっぱりしたあとは、やっぱこれだと。

ノンアルを流し込んで、「くぁーっ」

私は今、間違いなく”幸せ”である。

 


 

昼食時も近づいた頃。

 

「ついた、ここが”エコーランド”」

なにも、すべてが無計画なわけじゃあない。

行きの車内で朝食以外にも調べていたことがあったのだ。

www.snownavi.com

 

エコーランドは、白馬周辺でも店舗が密集した地域だ。

人気店が軒を連ね、きっとシーズンは賑わうのであろう。

 

しかし、どれも魅力的で個性的な店構えだ。

きっと、ここは白馬の激戦区。魅力的な店だけが勝ち残る。

 

「あった!あった。ここよ」

その中でも、私が選んだのはサウンズ・ライク・カフェ。

www.sounds-like-cafe.com

 

「すみませーん…」

店内に入った瞬間、店構えから漂うおしゃれな雰囲気がどっと私に押し寄せる。

ここは、間違いなく。おしゃれである。

センスの良さが、伝わる。

 

「ほら、お水わたして?」

店員の母に連れられた子供と思しき子が、お冷を置く。

「ちょっと待ってくださいね」

 

そう告げられ、しばらくすると、オーナーがメニューをさしだしてくれた。

「じゃあ、このBLATサンドセットで。アイスカフェオレでいいですか?」

「オッケーですね。では、お待ち下さい」

 

ランチセットが来るまでの間、店内を見回す。

おしゃれだ。ここは今まで来たカフェの中でも、かなりセンスがいい。

『海外でコーヒーを学んだオーナーが白馬に開いたエスプレッソコーヒーのカフェ』という触れ込みは、間違いではなかった。

 

「先にお飲み物ですねー」

良いグラデーションのカフェオレと、おまけのクッキー。可愛らしい。

そして―

 

「おまたせしました。BLAT(ブラット)サンドのセットですね」

…おお、これが。

素晴らしい。これが。

いかにも海外仕込みといったルックスである。非常にボリュウミィだ。

 

慎重に、かつ大胆に押しつぶし、具材とパンをなじませてから齧り付くのが美味しくいただく作法だと私は信じている。

間違っても、備え付けのナイフで切っちゃあいけない。

 

「…おいし」

野菜がメインであるように、ベーコンが程よい脂身と塩気を添える。しかしながら、アボカドの濃厚さが満足感を高めてくれる。自然と笑顔になる、そんな味であった。

 


 

ハイセンスなエコーランド。

しかし、周辺は昔ながらの長野の農村の雰囲気が残る。

「この畦道、ほんとうに通って良いのか?」

一抹の不安を感じるも、ここが、次の目的地の最短ルートだ。

 

ついた。”みみずくの湯”だ。

白馬で温泉と検索すれば一番に上がってくる湯だ。

みみずくの湯 | 八方温泉

 

朝風呂を浴びたばかりであるが、温泉は何度入っても良い。

先程の”八方の湯”とはちがい、昔ながらの素朴な雰囲気である。

 

屋内はお世辞にも広いとは言えない。

 

だが、マッサージチェアのある休息所は必要十分だ。

 

早速噂の湯に浸かる…ふーっ。

ああ、ここも当たりですね。やや熱めの湯が、身にしみる。

白馬の湯巡りは外れがない。

 


あてもない、一人旅。余裕を持っていきたい。

「そろそろ、帰る方向で」

そう決めて、再び白馬駅方面へ。途中、ノースフェイスの旗艦店が。

GRAVITY HAKUBA | THE NORTH FACE | GOLDWIN BLOG PORTAL (ゴールドウイン ブログ ポータル)

 

「めちゃでかい!」

郊外のモールに組み込まれた半端な店舗よりは、確実に品数が良い。

カフェも併設されているみたいだし。今度来たら、飲食したい。

 

「えっ、パタゴニアもあるのね」

そう、名峰のもとにはアウトドアブランドの店が集まるのである。

www.patagonia.jp

 

しっかし、アウトドアブランドのカラフルなウエアは私の趣味に合っている。

彩りの良いものは、欲しくなるんです。

 

と、いうわけでうっかりベルトを購入。

ボルドーが、服装のアクセントになれば、と。

これは、旅行でもなく完全にただの買い物ではあるが、欲しいものが買えたので良い。

 


 

列車本数が少ない白馬に長居するのはやや心もとない。

すでに時刻は15時過ぎ。ここで、いったん松本まで移動しておくことに。

 

「ここが松本駅か。思ったよりは、おおきい」

さすが城下町にふさわしいというか。立派なターミナルである。

私は行きの反省を活かし、帰りの乗車券をすぐさま購入すると、発車時刻まで時間を潰すことにした。

 

「そういえば、ここ信州だよねぇ。んなら、おそば食べときますか」

偶然、駅前に信州そばの名店があったので思わず立ち寄る。

www.tripadvisor.jp

(なお、立ち寄ったのは駅舎店です)

 

蕎麦屋に入ったら、鴨せいろ。有無を言わさず、鴨せいろ。

わたしは、そう決めている。これは、そばがいまいちだったとき、鴨汁の旨味でやり過ごすという保険であるのだが、その考えが申し訳なくなるくらいの、素晴らしいつるやかな風味高い蕎麦であった。

蕎麦湯まで余すところなく堪能した。

 


 

「もう、こんな時間か」

気づけば17時過ぎである。これでは千葉につくのは20時過ぎだ。

今頃白馬にいたら、どうなっていたか…

 

不思議と名残惜しさはない。これはきっと、したいことはしたからであろう。

思えば、今回の目的は夜行列車に乗ることであった。旅の冒頭ですでに、目的は果たせていたのである。

 

「だけど、最後まで…余すところなく」

 

そう、松本駅構内で「つまみ弁当」なる駅弁を入手していたのだ。

しかも今回は、普段駅構内にはめったにないノンアルまで見つけて購入済みなのである。我ながら抜かりない。

こうして、帰路も存分に楽しんだ私なのであった。

 


 

参考

今回の旅行にいくらかかったのか、ざっと計算してみました。

 

私用の買い物がなければ、都内からおよそ3万円のコースです。

夜行使えば、実質一日で収まるのでムーンライト信州の運行時期と合えば非常に魅力的な旅程ですね。行きの私みたいなことがないように、せめてチケットの購入は余裕を持つべきですね。

 

seisyun.tabiris.com